ooyamasay

詩をただ載せていきます

悲しみの奴隷/大山星

悲しみの奴隷/大山星

 

あらゆることに糸を伸ばした私の心の巣は

ささいなことでふるえる

 

 

あのときあなたと私が交換した、

ポイントカードだけではなくて

ただの波打った空気や

決してきれいに澄んではいない視線でさえ

あなたと私を結びつける


どうかさっき日付けが変わる前の

人身事故で亡くなったのが

あの日私のレジで買い物をした

あなたでありませんように

私の知らない人も含めて

誰でもありませんように

心安らかに眠れますように

そして、いつか私もあなたほどの勇気と

思いやりを持った人になれますように

 


駅員のアナウンス、集う人々の頭、

もれ聞こえるため息と悪態

すべて私の頭の上を通り過ぎて

ただふるえる糸を見つめるしかできなかった

不規則に小刻みに激しくふるえてその糸は

雨露に濡れてやっと重くなりしだいに

エネルギーを奪われて沈黙した

 


黒く澱んだ空気がもたれて

私たちが息をするのと同じくらい無意識に

酸素は奪われて

気づいたらろうそくの火は小さくなっていた

たまたまふっと風が吹いて空気が流れただけで

もうその火は消えてしまうような世界になった

溶け残った、わずかなろうのかたまりに

祈りをささげるようなことは、

私にはできないけれど

ただ乾いたそれをなで、ああと息を洩らし

小さな花を添えながら

あなたの心の平穏を願うしか

私にはできないのだった、